ツーリングレポート 原付2種で行く、岐阜、茨城、東京、静岡の旅!!


平成12年8月12日

 1年振りのロングツーリングに興奮してよく眠れないまま、朝4時30分に出発。台風の接近 
が気になったが、出発をあきらめる気は、更々無い。まだ、夜が明けきっておらず、駅前には 
誰もいない。
 ツーリングの相方は、ホンダCB125T。原付扱いなので高速道路が使えず、最高出力16馬
力でちょっと非力は否めないが、燃費が良く、長時間走行にも疲れない大和撫子。少しずつ色
が変わっていく東の空を見ながら、京都市内をぬけ滋賀県に入る。遠くに琵琶湖を望みなが 
ら、国道8号線を北上しているとマスツーリングのライダー達とすれ違う。今回の旅、初めての 
ピースサインの洗礼に、サラリーマンからライダーに変身している自分に気付く。
 1年振りに関西地方を脱出、岐阜県関が原に至る。400年前の大合戦の跡地だ。東軍の総
大将、徳川家康の本陣跡を見学した後、南宮大社にて今回のツーリングの安全を祈願した。
JR岐阜駅に到着したのは、午前8時30分。駅前のコンビニでおにぎりの朝食。前方には有名
なソープランド街。こんな時間なら怖くない。早速、ライダーから探検隊に変身。バイクをゆっく 
り走らせていると、突然、黒い蝶ネクタイをしたオジサンが、「お兄ちゃん、探してるの。」とバイ 
クの前に飛び出してきた。「お前みたいな弟、俺にはおれへんわい。」とさっさと退散。
 金華山頂上の岐阜城を仰ぎ見ながら、256号線を北上。こんな山の上にどうやってこんなに
大きな城を築けたのだろうと、戦国時代の建設技術に圧倒される。
 山岳地帯に入りワインディングロードとなる。国道の割に道が狭く見通しも悪いので、スピード
が出せずに苦労していると、地元?のマウンテンバイクのアスリートに凄いスピードで追い抜か
れた。「なんぼなんでも、自転車に抜かれたままいうわけにもいけへんな。」とエンジンを吹かし
て追い抜いたら、アスリートも加速して抜き返してきた。そんなやりとりが3回位続いたが、アス 
リートに諦める気配がないので減速した。(ええ根性してまんな。)
 郡上八幡に到着したのは、ちょうど昼。テレビで有名な、高い橋の上から度胸試しに川へ飛 
び込みを行うという新橋へ向かう。橋の上では海水パンツ姿の若者達が約15メートル位下の 
川底を覗いているが、誰も飛び込まない。もしかしたら、近くに停まっているツーリングバイクの
ライダーかもしれない。カメラを構えて15分程待っていると、仲間達のカウントダウンに合わせ
て、1人の若者が飛び降りた。無音の瞬間の後、深い緑色の川面に、大きな水音とともに真っ 
白な水しぶきが飛び散る。浮いてきた若者に橋の上から大きな拍手。水面で平泳ぎをしなが 
ら、若者は手を振って答える。俺も飛び込みたいという衝動をなんとか我慢してバイクのエンジ
ンをかけた。(ウソつけ)

 郡上八幡の新橋 写真中央の青年に注目

 走行距離が300キロを超えたので、燃料を補給。丹生川村のGSでは、冷たいトマトが無料 
で食べ放題。3つ食べたらスタンドの兄ちゃんが笑っていた。
乗鞍スカイラインに到着。乗鞍スカイラインは、日本一高所を走る観光道路で最高高度は2,7
00メートル。荷物を満載したCBにはちょっと辛い坂道で、2速、3速を使ってスロットルをヒス 
テリックに開けながら登って行く。しかしながら、高度が上がるにしたがって空気が薄くなり、エ 
ンジンが息をつく。不完全燃焼が起きるのかマフラーがポンポンと音をたてる。何度もエンスト 
しながら万年雪の残る道を頂上に到着。残念ながら雲が立ち込めて下界は見えない。ビック 
バイクの横にCBを停めると、非力ながら荷物を満載してここまで走ってくれたCBが愛しく感じ 
る。

乗鞍スカイライン

 そろそろ陽が傾き、テントが張れる場所を探しながら走るが、空は今にも泣き出しそうな気 
配。長野県塩尻市の健康ランドに泊まることとする。温泉で一日の疲れをゆっくりといやし、仮 
眠室で8時半に就寝した。 
本日の走行距離436キロ


8月13日

 午前3時頃、嫌な音で目をさますと、隣のおっさんの歯軋り。仕方がないので、風呂に入った 
りして時間をつぶし、夜明けと同時に出発。19号線を北上。適度なワインディングと犀川の美 
しさがマッチした素晴らしい道を朝の新鮮な空気に包まれて快適に走る。
 長野市の善光寺にお参りし、お戒壇めぐりを行う。本堂の床下を通る回廊を巡り、本尊の真 
下にある錠前に触れば御利益があるのだが、回廊は真の闇。なんとか錠前を見つけ、くどい 
位に御願いをしておいた。

 善光寺山門

 詩吟で有名な川中島の合戦地に立ち寄る。ここで、いつもの悪い癖が出てしまい、土産物屋
で、長さ2メートル近くもある大きな武田信玄の風林火山の幟と上杉謙信の毘の旗、赤まむし 
(毒蛇)の干物を買って散財してしまった。帰宅後、「そんなしょうもないもんばっかり買うてきて 
どないするねん。」と家族に罵倒されることになる運命を、すっかり有頂天になっているその時 
の私は知る由も無い。土産物屋のおばさんにもらった青リンゴをかじって朝食のかわりとす 
る。青リンゴをアイスキャンディー以外で食べるのは初めてだ。アイスキャンディーの青リンゴ 
の味がした。(当たり前やんけ。)
 次に、松代の幻の大本営跡を訪ねる。太平洋戦争末期、連日続く東京の空襲に危険を感じ 
た軍部が、本土決戦を前提として、大本営、皇居、政府諸機関を同地に建設した総延長13キ
ロメートルに及ぶ地下壕に移転させようとする計画がありました。現在は、一部が公開されて 
おり、500メートル位中へ入れる他、一部が気象庁の地震観測所として使用されています。中
は意外に広く幅7メートル、高さ2.5メートル位あって、碁盤の目のように整然と掘られています
が、ほとんどセメントは使われていません。色々感想はありますが、ここが使われずに良かっ 
たと思うのは、私だけではないと思います。

 松代の大本営跡

 幕末の英傑、佐久間象山の生誕地に建つ象山神社にお参りして、18号線を南へ走る。上田
市では、上田城を見学。小よく大を制すの言葉どおり、知略の限りを尽くして多勢を無勢にて 
翻弄した真田幸村を奉った幸村神社に、小排気量125CCで高速道路も使わずに行う今回の
長距離ツーリングの無事を祈願する。
 軽井沢に入ったころから、道路標識に東京方面を示す案内が入り始め、関東平野を意識す 
る。ところが心配していた雨が遂に降り始めた。荷物を黒いビニールのごみ袋に包み、雨対策
を行う。左手に見えるはずの浅間山も全く見えない。お盆の渋滞の中、車の間を縫うようにゆ 
っくりと走リ続ける。
 しばらく走ると、群馬県に入る。ついに関東地方に来たのだ。ところが、雨は容赦なく降り続 
く。レインコートの中に汗が溜まって気持ちが悪い。しかしながら行田市や加須市の、山が全く 
無いフラットな田園風景は、昨年行った北海道の十勝平野と見間違えるようだ。畑の土もいわ 
ゆる関東ローム層で真っ黒。北海道の泥炭層の様だ。時々ある民家は、立派な防風林で囲ま
れている。意外な景色に感動。
 今夜の寝場所は、茨城県境町の道の駅。自転車旅行の50歳台の男性2人と雑談しながら、
ベンチのベットで寝袋にくるまる。
本日の走行距離332キロ


8月14日

 夜中に自動車の暴走族がやってきて騒ぎ始める。エンジンを吹かしたり、花火をするので、 
ゆっくり寝ていられない。4時すぎに辛抱出来ずに出発、霞ヶ浦へ向かう。有り難いことに雨は 
止んでいる。土浦駅前のベンチで再度仮眠したあと、霞ヶ浦湖畔の田園地帯を走る。蓮根畑 
が珍しい。
 今回の旅三つ目のハイライト、千葉県の九十九里浜に到着。台風の影響もあって波がかな 
り高く、まるで映画のラストシーンの様な風景に感動!感動!感動の嵐。思わず五木ひろしの 
唄を口ずさみながら、涙がこぼれて来た。(なんで、五木ひろしやねん。)

 九十九里浜


 房総半島を横断し、東京湾を望む。袖ヶ浦、市原市と続く巨大な石油化学コンビナート群に 
圧倒されながら、国道16、14号線と東京に向かって走る。千葉市を抜け、臨海公園という道 
路看板を見て、「さぁーすが臨海都市、トレンディードラマみたいやんけ。」なんて思っていた 
が、よく見ると臨海霊園だった。
 夕方5時前に「遂に東京まで来たやんけ。」勝鬨橋を片手を天に突き上げるガッツポーズで 
渡り、国会議事堂に至る。写真を撮っていると、白いマークUが横に停まり、背広姿の体格の 
いい五分刈り目つきの鋭い男が降りてきた。「国会議事堂って写真撮ったらあかんねんやろ 
か。別にあやしいことしてへんのに。」と田舎者の私は一瞬弱気になったが、「ツーリングです 
ね。私もバイクが好きなんです。シャッター押しましょうか。」の声にホッとした。

 国会議事堂前

今夜の宿は御茶ノ水の大きなシティーホテル。(えっへん。どんなもんだい。実は会社の福利 
厚生で補助が出るのでほとんどタダで泊まれるのです。)チェックインの時、会社の人にばっ
た り出会ってしまった。(出張デート嬢でも部屋に呼んで破目外したろう思たのに。ウソです。
そんなお金と度胸は持ってません。)

本日の走行距離330キロ


8月15日

 「しもた。」と思ったのは朝8時。久しぶりのベットに朝寝坊。「ズームインなんとか言う、朝の 
テレビ番組のファイヤーと叫ぶキャスターの後ろで手を振るという会社の同僚との約束を破っ 
てしもうた。」(お前いったい何歳やねん。)
 早々に荷物を整え出発。青山通りに向かう。今回の旅四つ目のハイライト、神宮外苑の銀杏
並木に到着。今を去ること25年位前、世の中はスーパーカーブームであり、当時小学生だっ 
た私も御多分に漏れずランボルギーニやフェラーリのカードを集めました。その中で、綺麗な 
銀杏並木の道を疾走するランボルギーニイオタ(知ってる?)の写真があったのですが、それ 
がここなのです。


 お台場の船の科学館へ。目的は昭和54年まで南極の昭和基地観測隊の物資輸送に従事 
していた宗谷の見学。意外に小さい船なので驚きました。

 南極観測船 宗谷


世田谷に嫁いでいる妹の家を訪問し、昼食を食べる。毎日、コンビニのパンやラーメンばかり 
だったので、米飯が本当にうまい。やはり日本人。3合炊きの電気釜はあっという間に空にとな
りにけり。
 お腹がいっぱいになると、力が湧いてくる。大阪へ向かって走るぞ。しかし、静岡県に入って 
も天気が悪く、楽しみにしていた富士山は見えない。そのうえ、原付通行禁止のバイパスが多 
く、思ったように距離が稼げない。今日の目標は、清水市の三保の松原でのキャンピングだっ 
たが、清水港が見えた途端、大雨が降り出した。思わずバイパスの高架橋下に逃げ込む。ま 
だ午後7時過ぎだが、寝袋を広げ寝ることにする。ところが、午後10時過ぎ、大きな犬がやっ 
て来た。気味が悪いうえ、雨が止んでいるので荷物をまとめた。夜間走行でも、出来るだけ大 
阪へ近づこうと決断し出発。10キロ程走ると、またまた大雨。とても走れる状態ではないので、
Uターン。JR草薙駅にて寝ることとする。

 本日の走行距離265キロ

 JR草薙駅


8月16日

 午前2時半頃、酔っ払いが喋り掛けてきて起こされる。「おっさん。早よ家帰りや。」30分位で
開放され、引き続き眠る。
午前4時。複数の人の気配。早足で真っ直ぐにこちらへ近づいて来る。明らかに酔っ払いの足
音ではない。「1、2、3人か。」体に戦慄が走る。寝袋を放り投げ戦闘体制。「かかって来んか 
い。元柔道部やぞ。但し、幽霊部員やけどな。」やって来たのは警察官。丁寧な口調で免許証 
を控えた後、開放してくれました。
完全に目が覚めてしまったので、暗い中を出発。雨は止んでいる。とにかく、1号線を西へ走 
る。この道さえ走っていれば、迷わずに大阪へ帰れるとっても有り難い道。浜松市に入り、日 
本三大砂丘の一つ、中田島砂丘を見学。大きさはともかく、美しいの一言。


 中田島砂丘


湖西市で1号線を外れ、渥美半島の先端を目指す。伊良湖岬からフェリーで三重県の鳥羽市 
へ渡って大阪までの帰路をショートカットする作戦だ。フェリーの中では大爆睡。もしかしたら、 
大いびきをかいていたかもしれません。(乗客の皆様、申し訳ない。)
鳥羽に渡ると大渋滞のうえ、凄く暑い。道路の温度計は38度。(ウソやろ?なんでこんなに関 
西は暑いねん。)鈴鹿峠を越え関市の道の駅で休憩。ところが、過労のためかベンチで熟睡し
てしまい気が付いたのは4時間後。
午後3時、家に着くと汗と排気ガスでうす汚れた汗臭い私を、クーラーの効いた部屋で高校野 
球のテレビを見ていた家族と犬が、冷たい麦茶で迎えてくれました。

本日の走行距離337キロ


走行距離   1,700`
燃   費   32.14`
燃   料   5,827円
入 場 料  1,200円
フェリー等  3,020円
土   産 12,035円
食   費 10,204円
宿   泊  5,500円
合   計 37,786円

(本稿は、八重洲出版 「モーターサイクリスト」 2000年12月号338〜341ページに掲載さ 
れました。)

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